製造業や金属加工の現場において、旋盤は欠かせない工作機械です。しかし、高速で回転する被削材やチャックを扱う旋盤作業は、重篤な怪我や死亡事故につながるケースが多く、長期的な影響を受けることがあります。
この記事では、旋盤事故に遭われた方やそのご家族に向けて、後遺障害等級の可能性や労災保険の補償内容、弁護士によるサポートまで詳しく解説します。
1 国内の労働災害における現状
厚生労働省の令和2年度統計によると、旋盤による労働災害は年間54件発生しています。件数自体は少ないように見えますが、その多くが指の欠損や機能障害など、深刻な後遺障害を残す事故となっています。
旋盤事故は、材料そのものが高速回転するため、衣服などが接触すると瞬時に巻き込まれ、重傷に直結しやすいのが特徴です。
旋盤事故でよく見られる発生パターン
旋盤事故の多くは、挟まれ・巻き込まれ事故、切れ・こすれ事故、飛来・落下事故です。
挟まれ・巻き込まれ事故
回転中の主軸、チャック、加工物に、作業者の手袋や袖口が引っ掛かってしまい、そのまま身体が巻き込まれるケースです。作業中の手袋着用や、回転が完全に止まる前に触れてしまうことで発生しています。
切れ・こすれ事故
回転中の材料に接触して受傷したり、切粉を手袋で直接払おうとしたりした際に深く切るケースです。保護具の未着用も事故の原因となります。
飛来・落下事故
加工中の材料が固定不良によって飛んできたり、重量のある治具や製品を脱着したりする際に足元へ落下して負傷するケースです。
2 労災保険から受けられる給付・補償の種類
治療費や休業補償は労災保険から給付される
労災で受けられる主な補償は、①療養(補償)給付、②休業(補償)給付、③障害(補償)給付などです。
① 休業(補償)給付
労災により仕事を休んだ場合、4日目以降から給付基礎日額の60%が支給され、さらに20%分が特別支給金として支給されます。結果として、収入の80%が補償されます。給付基礎日額は、災害発生日の直前3か月間の賃金総額を暦日数で割った額です。
② 療養(補償)給付
労災で病気やケガをしたとき、治療費や入院費などの自己負担なく医療を受けられる制度です。労災発生から治癒または症状固定までの期間に適用されます。
③ 障害(補償)給付
症状固定後に障害が残った場合、等級に応じて年金(1~7級)または一時金(8~14級)が支給されます。
④ 遺族(補償)給付
労災で労働者が亡くなった場合、生計を共にしていた遺族に年金が支給されます。該当する遺族がいない場合は一時金が支給されます。
⑤ 傷病(補償)給付
1年6か月以上治癒しない場合、傷病等級1~3級に該当すれば年金が支給されます。該当しない場合は、休業給付が継続されます。
慰謝料や逸失利益の全額は補償されない
労災保険は会社の落ち度のあるなしにかかわらず、業務中の事故による負傷等であれば一定額を労働者に給付するもので、労働者にとって貴重な制度ですが、労災保険は国が定めた制度として、いわば最低限の補償給付を行うものといえます。
つまり、労災保険では給付されない労働者の損害があり、例えば①慰謝料(入・通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料)や、②事故前収入の100%分の休業補償などは支払ってもらうことが出来ません。
労災事故の発生について、会社にも責任があれば、労働者は労災保険では補償給付を受けられない損害項目である、①慰謝料(入・通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料)や、②100%分の休業損害の各賠償請求を会社に対して行うことができます。
3 会社の責任を問う「損害賠償請求」という選択肢
会社が負うべき「安全配慮義務」とは?
自分一人で作業中に怪我をした場合など、労働者の不注意が原因と思われる事故でも、会社の安全管理体制に不備があれば、安全配慮義務違反として損害賠償を請求できます。ただし、会社は「労働者の過失で事故が起きた」と主張して責任を否定することがあります。
安全配慮義務は、従業員の心身の安全を守るために事業者が負う義務で、業種や作業内容などを総合的に考慮して判断されます。教育不足や会社の管理する設備の不備が原因の場合は、違反を問いやすいです。
また、労働安全衛生法や規則に違反して事故が起きた場合も同様です。一方、工場内での単なる転倒(階段を降りているときに滑って転倒したケース)などは、安全配慮義務違反を問うのは難しいです(ただし労災は適用されます)。
重大事故で法令違反が認められれば、会社の責任を問いやすくなります。損害賠償請求の時効は10年です。
安全装置の不備や教育不足は会社の責任が問われる典型例
安全配慮義務の内容は、業種、作業内容、作業環境、被災者の地位や経験、当時の技術水準など様々な要素を総合的に考慮して決まります。
そのため、具体的な被災状況をお伺いしてからでないと、会社に対して安全配慮義務違反を問えるかどうかは分かりません。
もっとも、当事務所の経験上、「会社の従業員に対する教育不足が原因で被災した」場合や、「会社が管理支配する場所で、会社から提供された機械や道具が原因で被災した」場合には、比較的安全配慮義務違反を問いやすいと言えます。
4 労災認定される旋盤事故のケース
① 回転部への巻き込まれ事故
旋盤の回転しているチャック(工作物を固定する部分)や加工物に、作業服の袖口、手袋などが巻き込まれて負傷した場合は、業務遂行中の事故として労災認定されるケースが非常に多いです。特に、手袋の着用が禁止されている作業で誤って使用し、巻き込まれた場合でも、業務中に発生した事故であれば認定の対象となります。
② 切削屑や加工物の飛散による負傷
加工中に発生する高温の切削屑が目に入って失明したり、固定が不十分だった加工物が遠心力で弾け飛び、作業者に直撃したりするケースです。これらは作業行為と直接結びついた事故であり、操作ミスや防護カバーの有無にかかわらず労災認定の対象となります。
③ 清掃・メンテナンス・段取り中の事故
作業終了後の切削屑の除去(掃除)中に鋭利な切削屑で深く手を切ったり、重いチャックや刃物台の交換・段取り替え中に足元に落として骨折したりしたケースも、業務に付随する不可欠な行為として労災認定されるケースが多いです。
④ 誤操作や不意の機械始動による事故
自動運転(NC旋盤)のサイクル待機中や、停止していると思い込んで手を入れた際に、不意に機械が動き出して負傷したケースです。「完全に停止したと勘違いした」という本人の思い込みや、衣服がスイッチに触れたといった誤操作が原因であっても、管理下にある機械による事故として労災認定の対象となります。
一方で、故意による危険行為や、業務と無関係な私的行動中の事故は原則として労災対象外となります。しかし、通常の業務中に発生した旋盤事故については、基本的に労災認定されるケースが多くなっています。
5 会社へ損害賠償を請求するまでの流れ
① 労災を申請してください
業務中や通勤途中で怪我をされた場合、まずは労災を申請して治療を受けてください。
会社によっては、労災の申請をすることを嫌がったり、または事故態様について会社に責任がなく従業員の方が全部悪いかのような形で報告をしたがったりするところもあります。
しかし、労災保険を使うことは労働者の権利ですので、会社に遠慮して労災を申請することをためらう必要はありません。
また、後々のことを考えれば事故態様(どのような事故か)はできるだけ正確に労働基準監督署に報告する必要があります。
労災を申請すれば、治療費の負担がありませんし、仕事を休んだことによる休業補償も受けられます。
会社によっては、治療費や休業補償を会社が支払うから労災を申請しないでほしいというところもあるかもしれません。
しかし、会社が支払うようにした場合、治療費や休業補償の支払いをいつやめるかは会社(又は会社が入っている保険会社)が判断することになりますので、非常に不安定な状態におかれることになります。
これに対し、労災保険の場合、被災者保護の観点から適切な時期が来るまでは継続して治療費や休業補償の給付を受けることができます。
② 適切な治療・検査を受けてください
事故によってお怪我をされた場合、できるだけ早期に病院に行ってください。
事故直後から痛みがあったとしても、すぐには病院に行かずに、事故から期間が空いてからはじめて病院で治療を受けたような場合、その痛みが事故によって生じたものかどうかがわからなくなってしまうおそれがあります。つまり、その痛みが事故によるものなのか、それとも事故以外の別の原因によるものなのかがわからなくなってしまい、事故と怪我(痛み)との間に因果関係がないのではないかと判断されるおそれがあるのです。
そのため、事故からすぐに病院に行き、異常や違和感がある箇所は全て正確に医師に伝えてください。
医師は、患者の説明をカルテに残しますが、患者が伝え忘れていた症状があれば、それはカルテに残らないので最初からなかった扱いにされる可能性があります。
また、痛みがある箇所についてはできるだけ早期にレントゲンやMRI等の検査を受けてください。
どのような治療や検査を受けるかについては、具体的な症状によって異なりますので、まずは担当の医師にご相談ください。
③ 後遺障害の認定手続
労災事故により怪我を負い、労災保険による治療を進めていったとしても、症状回復の見込みがない状態となる可能性があります。
このように、これ以上の治療継続による回復が見込めない状態を「症状固定」といい、このような状態になった場合は、原則として、労災保険の治療費負担が終了します。労災保険から追加で補償を受けるためには、労災保険の定める後遺障害の認定を受ける必要があります。
この認定を受けるためには、労災保険における後遺障害等級認定等の申請手続を行っていくことになります。
労災保険の後遺障害等級認定を行う主体は、労働基準監督署(労基署)です。労基署の認定調査を経て、後遺障害を認定するかどうかが判断されます。
この労基署に対して後遺障害等級の認定手続きを進めていくには、障害の内容を具体的に記載した診断書を一緒に提出しなければなりません。この診断書は、「障害(補償)給付請求書添付診断書」と呼ばれるものです。
医師は、治療の専門家ですが、後遺障害認定の専門家ではございません。
診断書に書いてもらう傷病名、症状(痛みやしびれ)、必要な検査結果、可動域について、被災者側から医師に伝えなければ、漏れが生じて適正な後遺障害等級の認定が受けられないことがあります。
被災者の後遺障害が適正に認定されるためには、診断書の作成が一番重要です。
そして、提出された診断書に基づいて、労基署は被災労働者本人との面談を行い、後遺障害の認定について判断します(事案によっては医師に照会を行う場合もあります)。
そのため、後遺障害の認定を受けるためには、この診断書の記載内容等が非常に重要なものなのです。
この診断書に不備や不正確な表現等があることで、適正な後遺障害の認定が受けられない可能性も十分あります。
④ 損害額を計算し、会社に請求する
会社に対して損害賠償請求が可能と判断した場合には、労災の資料を取り寄せていただくことになります。
労災に提出した資料や労災が決定した内容の資料については、当該労働基準監督署を管轄する「労働局」で「保有個人情報公開請求」という制度に基づいてコピーを入手することが可能です。なお、労災の資料の入手には、申請してから一か月ほどかかります。
入手した資料をもとに、事故状況と認定された後遺障害の内容に基づいて検討し、損害額を計算します。
その後、内容証明郵便で会社に通知書を送り、会社と交渉をします。
話し合いで解決できない場合には会社に対して訴訟提起をします。
6 当事務所のサポート内容
後遺障害認定に際しては後遺障害診断書の記載が非常に重要であり、記載内容によっては、認定される等級結果や補償にも大きく影響が出る可能性があります。
また、ご本人が労基署で面談する際にも、初めてのことで、ご自身で上手く症状等を説明できるかどうか不安な方も多いかと思います。
当事務所は、労災被害に遭われた方の後遺障害の申請のサポートに注力し、適切な障害診断書となっているか等のチェックを行うだけでなく、ご本人の労基署での面談時に上手くご自身の症状を伝えることができるように、事前に打ち合わせ等を実施しサポートさせていただきます。
福岡市と北九州市に事務所がありますので、お近くの事務所で弁護士と直接打合せをすることが可能です。
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