製造業の労災はなぜ多いのか?
製造業において労働災害が多い理由は、作業環境の危険性と安全管理の難しさにあります。製造現場では大型機械や高温の設備、化学物質などを扱う機会が多く、少しの不注意や機械の不具合が重大な事故につながることがあります。また、作業が単調で長時間に及ぶことも多く、疲労や集中力の低下によってミスが起きやすくなります。
さらに、十分な安全教育が行き届いていなかったり、経験の浅い労働者が増えていたりする現場では、危険への認識不足が事故のリスクを高めます。特に中小規模の工場では、安全対策への投資や人員の確保が難しく、労働者が無理を強いられるケースも少なくありません。
このように、製造業の労災が多い背景には、物理的な危険要因に加え、人的・組織的な問題が複雑に絡み合っているのです。
製造業で後遺障害が残る身体的怪我の典型例
製造業で後遺障害が残る典型的な身体的怪我には、主に以下のようなものがあります。
まず、機械に手や指を巻き込まれることで起こる「切断」や「挟まれ」による指の欠損などの重度の損傷です。これにより、指の欠損や手の機能障害が残ることがあります。また、「重量物の落下」や「転倒」による骨折や関節の損傷も多く、特に腰や膝、肩の関節に後遺症が残る場合があります。
さらに、高温の設備や溶接作業中の火傷も深刻で、皮膚の広範囲にわたる火傷が残り、機能障害や変形を引き起こすことがあります。化学物質による皮膚や呼吸器の障害も、場合によっては長期的な後遺症につながることがあります。
これらの怪我は、適切な治療やリハビリが行われても、身体の機能回復が不完全であったり、外見上の障害が残ったりすることが多く、労働者の生活や仕事に長期的な影響を与えることが少なくありません。
後遺障害認定の流れと注意点
1 労災事故の発生と治療の開始
労働災害が発生した場合、まずは会社を通じて労働基準監督署に労災申請を行い、「療養補償給付」により治療を受けます。
2 症状固定の判断
治療を続けてもこれ以上の回復が見込めない状態(=「症状固定」)に達したと医師が判断した時点で、治療を終了します。症状固定後も障害が残っている場合、後遺障害の可能性が出てきます。
3 後遺障害の申請準備
申請者は以下の書類を用意します
・障害補償給付支給請求書
・診断書(障害に関するもの)
・レントゲンやMRIなどの画像、医療記録
・事故状況や業務内容の説明資料
4 労働基準監督署へ提出
書類一式を所轄の労働基準監督署に提出します。
労基署は、提出された医学的資料や申請者との面談をもとに、障害の程度と因果関係を審査します。
5 障害等級の認定(1級~14級)
労働基準監督署の審査により、障害の内容が14等級のいずれかに該当すると認められれば、障害補償給付(年金または一時金)が支給されます。
・等級1~7級:障害補償年金
・等級8~14級:障害補償一時金
6 不服申立て(必要な場合)
等級や認定結果に納得できない場合は、「審査請求」や「再審査請求」などの行政不服申立てが可能です。
7 注意点
医師は、治療の専門家ですが、後遺障害認定の専門家ではございません。
診断書に書いてもらう傷病名、症状(痛みやしびれ)、必要な検査結果、可動域について、被災者側から医師に伝えなければ、漏れが生じて適正な後遺障害等級の認定が受けられないことがあります。
被災者の後遺障害が適正に認定されるためには、診断書の作成が一番重要です。
そして、提出された診断書に基づいて、労基署は被災労働者本人との面談を行い、後遺障害の認定について判断します(事案によっては医師に照会を行う場合もあります)。
そのため、後遺障害の認定を受けるためには、この診断書の記載内容等が非常に重要なものなのです。
この診断書に不備や不正確な表現等があることで、適正な後遺障害の認定が受けられない可能性も十分あります。
労災で受けられる補償内容とは
① 休業(補償)給付
労災により仕事を休んだ場合、4日目以降から給付基礎日額の60%が支給され、さらに20%分が特別支給金として支給されます。結果として、収入の80%が補償されます。給付基礎日額は、災害発生日の直前3か月間の賃金総額を暦日数で割った額です。
② 療養(補償)給付
労災で病気やケガをしたとき、治療費や入院費などの自己負担なく医療を受けられる制度です。労災発生から治癒または症状固定までの期間に適用されます。
③ 障害(補償)給付
症状固定後に障害が残った場合、等級に応じて年金(1~7級)または一時金(8~14級)が支給されます。
④ 遺族(補償)給付
労災で労働者が亡くなった場合、生計を共にしていた遺族に年金が支給されます。該当する遺族がいない場合は一時金が支給されます。
⑤ 傷病(補償)給付
1年6か月以上治癒しない場合、傷病等級1~3級に該当すれば年金が支給されます。該当しない場合は、休業給付が継続されます。
会社が労災申請に協力しないケースと対処法
労働災害が発生した場合には、労働安全衛生法という法律上、事業主(会社)は労働基準監督署に報告をする必要があります。これを怠った場合、刑事責任を科されることがあるように、労災かくしは「犯罪行為」です。
労災かくしは、被災者である労働者の立場を不安定にし、将来の不安を助長する決して許されないものですので、厚生労働省も「労災かくし」の撲滅に取り組んでいます。
しかしながら、現実にはたとえば、労災事故の発生を隠そうとしたり、「自己責任」だとして申請書類への記入を拒んだりすることがあります。
しかし、労災申請は労働者の権利であり、会社の同意がなくても手続きを進めることが可能です。労働者本人が直接、労働基準監督署に申請することが認められており、会社が協力しない場合でも申請書類にその旨を記載することで受付されます。また、事故の証拠として、診断書、事故現場の写真、目撃者の証言、勤務記録などをそろえて提出することが有効です。
このように、会社が非協力的であっても、労働者自身の行動によって労災申請を進めることは十分可能です。ご自身の立場を守る上でも、労働災害に遭ってしまった場合には、労災保険の申請を行いましょう。
弁護士に相談するメリット
① 弁護士は会社との交渉を代理できる
弁護士は社労士と異なり、会社に対して代理人として法的交渉を行うことができます。交渉には精神的負担や法的知識が伴うため、労災でけがをした場合は早い段階で弁護士に依頼することが望ましいです。
② 後遺障害認定に強い
後遺障害の認定には診断書が重要ですが、記載内容によっては認定が得られないこともあります。弁護士に依頼すれば医師へのアドバイスも含め、適切な認定を得るための支援が受けられます。認定を受けることで損害賠償請求が可能になります。
③ 慰謝料などの損害賠償請求ができる
労災申請だけでなく、逸失利益や慰謝料の請求も弁護士なら可能です。労働審判や訴訟など適切な手段を選ぶ判断も弁護士が担います。補償の幅を広げるためにも、ぜひ弁護士に相談してください。
弁護士に相談すべき具体的なケース
1 会社が労災申請に協力しない場合
労災に関して弁護士に相談すべき具体的なケースとして、まず挙げられるのは、会社が労災申請に協力しない場合です。たとえば、労働者がけがや病気を負ったにもかかわらず、会社が労災ではないと主張し、申請書の作成や提出に応じないことがあります。このような状況では、労働者自身が単独で労基署に申し立てることも可能ですが、会社側とのやり取りや証拠の収集には法律的な知識が必要になるため、弁護士のサポートが有効です。
2 後遺障害が残る可能性があるけがを負った場合
後遺障害が残る可能性がある重度のけがを負った場合も、弁護士への相談が重要です。後遺障害の等級認定を受けるためには、医師の診断書が不可欠ですが、その内容次第で等級が左右されることがあります。弁護士に依頼すれば、適切な等級認定を受けるために必要な証拠や診断書の内容について、医師と連携してアドバイスを受けることができ、将来の損害賠償請求にもつながります。
特に、会社に対して慰謝料や逸失利益などの損害賠償を請求したいと考える場合は、弁護士の関与が不可欠です。労基署からの補償はあくまで最低限のものであり、会社に安全配慮義務違反があった場合には、民事訴訟や労働審判などを通じて追加の賠償を求めることができます。このような法的手続きは複雑で専門的な知識が必要なため、経験ある弁護士の助言と代理が大きな助けとなります。
3 労災申請が不当に却下された場合
労災申請が不当に却下された場合や、認定内容に納得がいかないときも、弁護士の力を借りるべき場面です。異議申し立てや再審査請求では、法律の解釈や証拠の提出方法に工夫が求められます。専門家の支援を受けることで、認定を覆す可能性が高まります。
当事務所のサポート内容
後遺障害認定に際しては後遺障害診断書の記載が非常に重要であり、記載内容によっては、認定される等級結果や補償にも大きく影響が出る可能性があります。
また、ご本人が労基署で面談する際にも、初めてのことで、ご自身で上手く症状等を説明できるかどうか不安な方も多いかと思います。
当事務所は、労災被害に遭われた方の後遺障害の申請のサポートに注力し、適切な障害診断書となっているか等のチェックを行うだけでなく、ご本人の労基署での面談時に上手くご自身の症状を伝えることができるように、事前に打ち合わせ等を実施しサポートさせていただきます。
福岡市と北九州市に事務所がありますので、お近くの事務所で弁護士と直接打合せをすることが可能です。