1 下請け労災の実態
厚生労働省の発表によると、令和5年の労災死傷者数は全国で135,371人にのぼっています。中でも建設業は、死亡災害は223人と産業別で最も多い状況です。建設業における死亡原因の約4割は「墜落・転落」であり、足場の組立・解体や屋根作業など、下請け作業者が担うことの多い高所作業に事故が集中しています。
また、製造業においても深刻な労災が発生しており、「はさまれ・巻き込まれ」といった機械災害が多数を占めています。特に、下請け比率の高い金属加工や組立工程では、安全対策や教育が不十分なまま作業が行われるケースもあり、事故が繰り返し発生しているのが実態です。このように、下請け構造の中で危険度の高い作業が集中しやすいことが、労災多発の背景となっています。
2 なぜ下請け労働者に事故が集中するのか
下請け労働者は、元請け企業の社員に比べて危険性の高い作業を任されやすい立場にあります。実際、労災の約6割は従業員50人未満の事業場で発生しており、下請け・孫請けといった小規模事業者に労災が偏在している実態が明らかになっています。その背景には、安全教育が十分に行われていないことや、安全装置・保護具の不備、作業経験の不足といった構造的な問題があります。
さらに、下請け労働者の中には、労災申請をためらう人も少なくありません。「労災申請をすれば、元請けから仕事を打ち切られるのではないか」という不安が根強く存在しているためです。その結果、本来報告されるべき事故が申請されず、いわゆる「労災かくし」が行われてしまうケースも見受けられます。
しかし、労災申請は労働者に認められた正当な権利であり、申請したことを理由に不利益な取り扱いを行うことは許されません。仮に元請けや事業者が、労災申請を理由に契約打ち切りや不当な扱いを行った場合、独占禁止法違反や不当労働行為に該当する可能性があります。
3 労災で受けられる補償内容とは
① 休業(補償)給付
労災により仕事を休んだ場合、4日目以降から給付基礎日額の60%が支給され、さらに20%分が特別支給金として支給されます。結果として、収入の80%が補償されます。給付基礎日額は、災害発生日の直前3か月間の賃金総額を暦日数で割った額です。
② 療養(補償)給付
労災で病気やケガをしたとき、治療費や入院費などの自己負担なく医療を受けられる制度です。労災発生から治癒または症状固定までの期間に適用されます。
③ 障害(補償)給付
症状固定後に障害が残った場合、等級に応じて年金(1~7級)または一時金(8~14級)が支給されます。
④ 遺族(補償)給付
労災で労働者が亡くなった場合、生計を共にしていた遺族に年金が支給されます。該当する遺族がいない場合は一時金が支給されます。
⑤ 傷病(補償)給付
1年6か月以上治癒しない場合、傷病等級1~3級に該当すれば年金が支給されます。該当しない場合は、休業給付が継続されます。
4 会社が労災申請に協力しないケースと対処法
労働災害が発生した場合には、労働安全衛生法という法律上、事業主(会社)は労働基準監督署に報告をする必要があります。これを怠った場合、刑事責任を科されることがあるように、労災かくしは「犯罪行為」です。
労災かくしは、労働者の立場を不安定にし、将来の不安を助長する決して許されないものですので、厚生労働省も「労災かくし」の撲滅に取り組んでいます。
しかしながら、現実にはたとえば、労災事故の発生を隠そうとしたり、「自己責任」だとして申請書類への記入を拒んだりすることがあります。
しかし、労災申請は労働者の権利であり、会社の同意がなくても手続きを進めることが可能です。労働者本人が直接、労働基準監督署に申請することが認められており、会社が協力しない場合でも申請書類にその旨を記載することで受付されます。また、事故の証拠として、診断書、事故現場の写真、目撃者の証言、勤務記録などをそろえて提出することが有効です。
このように、会社が非協力的であっても、労働者自身の行動によって労災申請を進めることは十分可能です。ご自身の立場を守る上でも、労働災害に遭ってしまった場合には、労災保険の申請を行いましょう。
5 元請けに対する損害賠償請求
労災保険では治療費や休業損害の一部は補填されますが、慰謝料や逸失利益は補償されません。そこで、元請会社に「安全配慮義務違反」などが認められる場合には、元請会社に対して損害賠償請求をすることで、これらの支払いを求めることができます。
元請会社が損害賠償責任を負うかどうかは、事故現場にどの程度関与していたか等によって判断されます。下請け労働者であっても、元請けが作業内容や工程を指示し、現場を実質的に管理している場合には、安全に配慮すべき義務を負います。危険な作業を認識しながら適切な安全対策を講じていなかった場合には、安全配慮義務違反が問題となります。
また、建設現場や工場などでは、労働安全衛生法により元請けに現場全体の安全管理責任が課されており、法令で定められた安全措置を怠っていた場合には、その違反を根拠として損害賠償責任が認められることがあります。
さらに、元請けの過失によって事故が発生したといえる場合には、民法上の不法行為責任も成立します。このように、元請けが安全管理に関与していれば、下請け労働者に対しても責任を負う可能性があります。
6 弁護士に相談するメリット
① 弁護士は元請けや会社との交渉を代理できる
弁護士は社労士と異なり、会社に対して代理人として法的交渉を行うことができます。交渉には精神的負担や法的知識が伴うため、労災でけがをした場合は早い段階で弁護士に依頼することが望ましいです。
② 後遺障害認定に強い
後遺障害の認定には診断書が重要ですが、記載内容によっては認定が得られないこともあります。弁護士に依頼すれば医師へのアドバイスも含め、適切な認定を得るための支援が受けられます。認定を受けることで損害賠償請求が可能になります。
③ 慰謝料などの損害賠償請求ができる
労災申請だけでなく、逸失利益や慰謝料の請求も弁護士なら可能です。労働審判や訴訟など適切な手段を選ぶ判断も弁護士が担います。補償の幅を広げるためにも、ぜひ弁護士に相談してください。
7 当事務所のサポート内容
特に後遺障害認定に際しては後遺障害診断書の記載が非常に重要であり、記載内容によっては、認定される等級結果や補償にも大きく影響が出る可能性があります。
また、ご本人が労基署で面談する際にも、初めてのことで、ご自身で上手く症状等を説明できるかどうか不安な方も多いかと思います。
当事務所は、労災被害に遭われた方の後遺障害の申請のサポートに注力し、適切な障害診断書となっているか等のチェックを行うだけでなく、ご本人の労基署での面談時に上手くご自身の症状を伝えることができるように、事前に打ち合わせ等を実施しサポートさせていただきます。
福岡市と北九州市に事務所がありますので、お近くの事務所で弁護士と直接打合せをすることが可能です。
面談日程調整のお問い合わせは、電話でもLINE(ID:t.onizuka@oni-law.com)でも可能です。


